米谷匡史「矢内原忠雄の〈植民・社会政策〉論」(『思想』945号、2003年1月)の要約

 皆様のお役に立てればと思い、要約したノートを打ち込んでみました。


はじめに

 矢内原忠雄の植民政策論は、植民による社会・経済の変容に注目している。その帰結であるディレンマを明らかにする。

一.「世界経済」の発展史

 矢内原は、植民地化による資本主義の浸透により、植民地の自立、本国と植民地の社会主義化へ向かうと展望した。しかし、そこにディレンマを見いだした。次節でそれを朝鮮統治論に即してみていく。

二.〈植民・社会政策〉論とそのディレンマ

 矢内原の帝国再編論は、植民地における「社会」の問題を焦点化し、その解決のために帝国日本を改造しようとするものだった。ただし、朝鮮人の移民労働者と日本人労働者との利害衝突といったディレンマを矢内原は予見していた。この点に関し、同時代のイギリス労働党の帝国政策を参照のこと。

三.先住民と沖縄人

 矢内原の議論では、樺太・北海道や南洋諸島、東南アジアなどの先住民、そして「沖縄人」は、ナショナルな自立を認められることはなかった。

むすび―〈植民・社会政策〉論の行方

 矢内原の論は、植民地と本国との相互作用を通じ、帝国全体の社会主義的発展を想定するものだった。しかし、植民地労働者と本国労働者の利害衝突、先住民や沖縄人の周辺化・帝国への包摂などの問題を含んでいた。矢内原の試みには不可避的なディレンマを読み取ることができる。今後の課題として、矢内原的な知=権力と、「大東亜共栄圏」とのつながり、そして戦後の東アジアに残した問題などが解明されねばならない。

野心的で非常に興味深い議論である。一言だけ言っておけば、矢内原における帝国全体の社会主義化うんぬんについてもう少し詳しい説明がほしいとは思った。