信頼できない語り手

 カズオ・イシグロ(著)土屋政雄(訳)『日の名残り』を読み返した。
 調べてみると、カズオ・イシグロの作品は「信頼できない語り手」というキーワードとともに語られることが多いようである。
 それを念願に置いて読み返すと、この小説は、「イギリスの落日と重ね合わせて描かれる執事の老境の愁い」といったところに括りきれない、はるかに苦いものとなる。驚かされた。
 作中に出てくる回想の中の甘い台詞も、文字通りのものかどうか、保証は何一つないのである。
 人生の味。