ステファヌ・クルトワ(他著)『共産主義黒書 〈コミンテルン・アジア篇〉』(恵雅堂出版)を読んだ。

『共産主義黒書 コミンテルン・アジア篇』

ポル・ポト政権下のカンボジアに一章が充てられているので、そこを読みたかったのである。

周知のようにポル・ポト政権は、都市から人を追い出し、貨幣を廃止した。人は満足な食事も与えられなかった。批判は死を意味した。移動の自由はなく、家族は引き離され、肉体労働が強制され、まともな医療もなかった。その一方、ポル・ポトら幹部は、実情を無視した誇大妄想的計画に従って命令を下し、疑心暗鬼から、疑わしい者を摘発し殺す仕組みを、主に子供を利用して作り上げたのである。

本書を読んで改めて思ったのは、ポル・ポト政権に関してはその前史が決定的に重要だということだ。じつは本書では、そのあたりは概説的なものにとどまっている。ポル・ポトカンプチア共産党で覇権を握ったプロセスはどうだったのか、政権奪取後の青写真はどのようなもので、それはどのように決まったのか。

とりわけ、本当のところが明らかになっていないようにみえるのは近隣国との関係である。中国やベトナムの体制が覆るまでは真相は藪の中かもしれないが、様々な方法を通じてできるかぎり解明されるべきである。

本書は、たとえば商業右翼誌の愛読者よりも、むしろ、今の資本制の矛盾と危機を何とかしたいと思っている人にこそ読んでいただきたいと思う。共産主義の壮大な、血にまみれた世界史的失敗を直視し、そこから何ごとかを学ぶことこそが、未来への展望につながる急がば回れの道なのである。