ハッキリしない理論

私は、宮台真司氏の論文「権力」(吉田民人編『社会学の理論でとく現代のしくみ』新曜社、所収)を久しぶりに読み返してみた。

→ 社会学の理論でとく現代のしくみ

氏の議論には二つの難点があると思った。

第一。氏はマトリックスを使う。しかし、行動すべき選択肢とその帰結がいつでも二つに分けられているところに問題がある。あまりにもきれいすぎる。現実はもっと混沌としており、この図式からこぼれ落ちる何かがある場合のほうがむしろ多いのではないか。そもそも、第三の選択肢、第三の帰結はないのか。

第二。氏は、日本社会には汎人称的権力様式が遍在しており、それが近代天皇制を作動させる基盤になったと言う。この議論は一見もっともらしいが、汎人称的権力なるものの説明があまりにも不十分であり、からっぽな概念としか思えないのである。