岡田英弘『日本史の誕生』

 岡田英弘『日本史の誕生』(弓立社、1994年)を読んだ。
 古代史はよい。日本というアイデンティティーができたのは白村江の戦い以降のことだとか、邪馬台国の位置の推定だとか。とても面白く読めた。
 しかし近現代史には問題がある。それも小学生にもわかるたぐいの。221ページより引用。

ようやく日清戦争の直後から、清は日本型近代化の直輸入に着手したが、その結果は、一九一一年の辛亥革命による清帝国の崩壊であった。〔…中華民国は〕共和国とは名ばかりの軍閥の割拠と内戦の連続で、日本と中国の関係が深くなればなるほど、中国の状況が日本の安全をおびやかす度合いが大きくなる。そこへロシア革命が起こって、共産主義の脅威が加わり、とどのつまり、日本は中国のおかげで国策を誤って満州事変、支那事変、大東亜戦争と、どんどん深みにはまって、国を亡ぼしたのである。

(*太字、〔 〕内は引用者)

 満州事変を起こしたのは誰か。石原莞爾であり板垣征四郎である。
 支那事変のキッカケとなった廬溝橋事件だが、廬溝橋はどこにあるのか。北京郊外である。日本の国土ではない。
 著者の論法は、車で人をひいておいて、そこを歩いていた方がけしからんというようなものであろう。
 古代史における優れた着想と、同時代史におけるいかにも偏頗な言いぐさとが同居しているのは、近世以来のある種の日本知識人の伝統を思わせる。