中島岳志『ヒンドゥー・ナショナリズム』

 中島岳志ヒンドゥーナショナリズム 印パ緊張の背景』(中公新書ラクレ、2002年)は手堅い本である。

 本書はヒンドゥーナショナリズム団体への参与観察を行った記録である。著者は社会科学の素養をじゅうぶんに活かしており、その分析はかなり行き届いている。
 著者はあとがきで、大塚健洋『大川周明』(中公新書)を推薦しており、「私は約6年前、この本を読んで研究の面白さを知り、研究者になることを決めた」という意味のことを述べている。著者をしてそこまで言わしめる本とはどういうものなのか、がぜん興味が湧いて来るではないか。

 ナショナリズムは毒にも薬にもなる、取扱い要注意のものである。本書に描き出されるヒンドゥーナショナリズム団体のありさまは、どうしても例の「新しい歴史教科書をつくる会」と二重写しになる。我々の問題を考える上で―むろん日本とインドでは諸条件が相当に異なるにせよ―参考になる一冊である。
 なお著者には本書の続編ともいうべき『ナショナリズムと宗教 現代のヒンドゥーナショナリズム運動』(春風社、2005年)もあるようだ。