衝撃のインド・レポート

 山際素男『不可触民 もうひとつのインド』(三一書房、1981年)は衝撃的な本である。

 堀田善衛の『インドで考えたこと』(と中根千枝『文明の顔・未開の顔』)に惹かれてインドに留学した筆者は、ある衝撃的な体験をする。(その内容は読者のために敢えて伏せることにする。ぜひとも原文に当たってほしい。)
 筆者はその体験を無かったことにすることができなかった。そして筆者はインドの不可触民の置かれた状況を調べることにした。
 本書で紹介されるエピソードは残酷きわまりない。こういうことが果たして地上でまかり通ってもいいのだろうか、といった事例が次々と出てくる。筆者が、どうかこのことを外の世界に伝えてくれと頼まれるくだりは、サバルタンスタディーズの概念がどういった背景の中から生み出されたかを物語っている。
 ところが、本書の読後感はふしぎと良いものである。というのもおそらく、人々が心から望む未来―人が人としての尊厳をもって生きられる社会―への希望と歩みがひしひしと伝わってくるからだ。
 筆者は、いくつかの文献を推薦している。たとえば、不可触民のコミュニティーに入って共に働いた記録を元にした、
・池田運『インドの農村に生きる』(家の光協会、1964年)
不可触民を扱った、
・H.R.アイザックス(著)我妻洋・佐々木譲(訳)『神の子ら』(新潮選書、1970年)

インディラ・ガンディー政権の崩壊〔1977年〕の時点でのインド社会のレポート
・David Selbourne(著)”An Eye to India” (Penguin Books)

などが挙げられている。